凄まじい強さ

苛烈なトライアル1stを勝ち上がった6人と、その年のまさしくトップ6がしのぎを削るのがトライアル2ndである。ここまで来たら、ひたすら黄金のヘルメットと1億1000万円を目指すのみ。ただ、ここからがまた激烈な戦いの連続となる。
たとえば、10月のダービーでSG初優勝を果たし、さらに直前のとこなめ周年を制して乗り込んだ初出場の末永和也。勢いでいえば、メンバー中一、二を争う存在だった若武者は、しかしトライアル2ndでは苦戦の連続だった。引いたモーターは決して劣勢だったとは思わない。初めて味わう最高峰の舞台の、その独特な空気に呑まれていたとも思わない。これまでにない緊張感はあったとしても、しかしゴンロクを並べるとはまったく想像していなかった。
同じく初出場の佐藤隆太郎。彼の場合は、春の勢いは近年まれに見るほどのものだったが、逆に近況はややリズムダウンして臨んだ、それもF休み明けで臨んだグランプリだった。引いたモーターも、上位6基では下降気味と伝えられ、新ペラスタートだった。ただ、佐藤はむしろ新ペラであることをポジティブに捉え、レースのない初日と2日目を整備と試運転に費やして、おそらく機力的には問題のないところまで仕上げて、初の最高峰に挑んだはずだ。それでも佐藤は、末永同様に苦戦を強いられた。1月号の展望記事にもあったように、初出場の選手になかなか微笑んでくれないのがグランプリの女神である。勢いがどれだけあろうとも、やはり初登場組には立ちはだかるものがあるというのか。

まさかの事態だったのは、池田浩二の選手責任落水とそれに伴う不良航法による減点だ。初戦をしっかりと逃げ切って迎えた第2戦で、この最強戦士に想像もできなかったアクシデントが起こった。第3戦を残して得点1、という状況はすなわち優出絶望を意味している。グランプリ優勝2回、出場も5年連続16回の名手にも、思いもよらぬ落とし穴が待っていることもある。トライアルの過酷さを最大限に示している事態だったと思う。それでも、第3戦でしっかりと2着を獲り切ったのは素晴らしかった。勝ち上がれるかどうかではなく、そこにある戦いを全力で獲りにいき、勝てはしなかったが一定の結果を残したのだ。それができるからこそ、池田浩二はこの舞台を常連の一人として戦うことができるのだろう。グランプリの魔というものが見えたからこそ、かえって池田の凄さを思い知ったような気がする。
そうした数々の凄絶な戦いを切り抜けて、優勝した桐生順平の凄まじさはもはや筆舌に尽くしがたいものがある。グランプリを優勝するというのは、並大抵なことではないのだ。いや、そんな物言いさえ軽いのかもしれない。桐生は「運と流れで勝てた」と語ったが、そもそも自力では操作できようもない運という部分を味方につけられること自体、まさに選ばれし者である証左なのだろう。激烈な戦いに哀しくも敗れた強者たちがいるからこそ、桐生の栄光はひたすら輝きを増す。それがいかに価値あるものなのかを指し示す。桐生に関する言及よりも、敗者たちに尽くした紙幅が多くなったが、だがそれこそが桐生がどんな戦いを勝ち抜いたかを表わすものなのだと思っている。令和7年のグランプリも、とことん濃密で壮絶で超上質な戦いだった。桐生順平はとことん強かった。(黒須田)
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