
PGⅠ第12回ヤングダービーレポート
記憶に残る優勝戦

【井上と前田の大競り】
バックで艇を並べた井上と前田。その状態で2マークに差し掛かったとき、激戦に拍車がかかる。外から前田をねじ伏せようとする井上。それを牽制して握り返そうとする前田。この攻防が大競りのような格好となったのである。
井上は弾かれるように大きく流れた。前田も井上を意識した分、ターンマークを大きく外す旋回となった。そこに伏兵となっていた中山が姿をあらわす。中山は1マークで井上に振り切られながらも、インの新開航をまくるようなかたちで3番手に粘っていた。すると、先行する2艇が競り合って外へと流れていく。このチャンスに、21歳の若者は冷静だった。しっかりとターンマーク際を回ると、井上を振り切ったかたちの前田を捕らえたのだ。GⅠ初出場の中山が一気にシンデレラボーイとなる予感が充満した瞬間だ。
【前田の差し返し】
2周1マーク、内で先行する中山はここも冷静に先マイ。再逆転を狙う前田はここで差を広げられ万事休す、と思われた。セーフティリードと見えるだけの差をつけて2周2マークに先頭で差し掛かる中山。ここで思いもよらぬ異変が起こった。中山は丁寧に旋回しようとしたのだろう。かなりレバーを落として回っているように見える。これがかえってサイドの掛かりを浅くしたのか、旋回後期でややもたつく格好となった。そこにスピードある差しを放った前田が内から舳先を掛けたのである。3周ホームに入ってのいわゆるラップ状態で、勝負のゆくえは完全にわからなくなった。いや、位置関係を考えれば前田が優位を握り返したということになるだろう。

【前田と中山の競り】
3周1マークに差し掛かり、前田を締め込みたい中山、一歩も引く気配のない前田と、両者の競り合い状態となった。前田が気合でターンマークを先取りするも、中山には押さえ込みにいっていた分、差しの選択はなかった。前田が中山を捌いて先頭に立つと、外を回った中山は減速しながら流れていくほかなかった。ここで先頭争いに決着がついたのだ。
そこに諦めずに猛追していた井上が突っ込んできていて、スピードが落ちていた中山と航跡が合ってしまう。両者は接触し、中山は転覆。なにしろ3周1マークの出来事であり、井上は3周2マークも回ってゴールまで走ったが、この接触事故が妨害失格と判定されてしまう。判定に気づかず見ていた方は、1着前田、2着井上と思っただろうが(実は僕もそうだった)、その前に失格となっていたため、3番手入線に見えた新開が2着、4番手入線に見えた中村日向が3着で確定している。
いやはや、なんという激闘! なんというスペクタクル! 事故レースとなってしまったので、手放しで称賛するのは避けるべきなのかもしれないが(それでもこの展開の端緒を開いた井上は、その部分では称えられるべきと信じる)、しかし若者たちが最後まで必死に戦い、興奮必至のレースを生み出したのである。その戦いぶりには拍手を送っていいはずだ。
レース後、中山は涙を見せている。いちどは栄冠を手にしたと確信した瞬間があったはずだ。それが転覆失格とは激しすぎる明暗である。キャリアなどを考えれば、耐え難い落差であっても不思議ではない。しかし、準優1号艇に怯まず、優勝戦当日も落ち着いて見えていた中山は底知れなさを感じさせたし、この経験が良質なバネになればそれはとてつもない飛躍につながるはずだ。
そして、実は激戦のターンマークすべてに絡んで、このバトルを珠玉の大激闘に昇華させたのは、勝った前田滉である。1周2マークは少し冷静さを欠いたかもしれないが、それも若者らしい蹉跌であった。そしてそれを盛り返してみせた渾身の追走は迫力があったし、最後に中山を競り落とした気迫もボートレーサーとして欠かせないマインドを発揮したものと見えた。このヤングダービー優勝戦の3周を最高のバトルにした立役者は間違いなく前田滉なのだ。本当に素晴らしい優勝だった!
記憶に残るエクセレントなレースを見せてくれた若者たち。彼らが近い将来にSGで激突し、ふたたび素敵な名勝負を見せてくれることを期待します!(黒須田)
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