
PGⅠ第12回ヤングダービーレポート
歴史に残る超絶激戦

ビッグレースの優勝戦で、ここまでの大激戦というのはめったにお目にかかれるものではない。
そもそも「抜き」という決まり手は全体の1割にも満たないもので、それ自体が珍しいとも言えるわけだが、SGやPGⅠの優勝戦でもそうそう出現しない。1マークできっちりケリがつくことが大半だし、それも「逃げ」がかなり多いことは説明するまでもないだろう。
実はヤングダービー優勝戦は2年連続で「抜き」決着である。昨年は、川原祐明が3コースまくり差しで逃げた関浩哉にバックで並びかけ、関が2マークで差し返して優勝を手にした。「抜き」が出現する場合、こうした1対1の逆転劇が非常に多い。22年グラチャンは、池田浩二が「抜き」で優勝したが、これも池田の先マイに対して2コースから差した上平真二がぐいぐい伸びて2マーク先マイ、池田が差し返したというもの。
3艇以上が絡んだ「抜き」決着で記憶に新しいのは、昨年のオーシャンカップ。4カドからまくって出た茅原悠紀をインから山口剛ががっちりと受け止めてバック並走となり、内からぐいっと伸びた椎名豊が2マークで仕掛け、これを山口が交わそうとする間隙を茅原が突いて先頭に立ったものだ。そういえば、山口のSG初制覇となった10年クラシックも「抜き」決着だった。2号艇からピット離れでインを奪った山口が先マイし、4コースから濱野谷憲吾が迫ったものだ。2マークでは濱野谷が先行するのだが、インを奪われたものの息を吹き返した岡崎恭裕がホームでぐいぐい伸びて2周1マークで濱野谷との競りに持ち込み、その間隙を山口が突いて先頭に立ったのだった。
これらの「抜き」は1周2マーク、あるいは2周1マークあたりで決着がついたものだが、もちろんゴールまで激戦が続いたビッグ優勝戦もある。伝説の「植木中道」と呼ばれる95年グランプリ。植木通彦と中道善博のデッドヒートは抜きつ抜かれつを繰り返してゴールまで延々と続いた。また、08年ダービーは丸岡正典と瓜生正義が、丸岡がやや先行しながらもゴールまでデッドヒートを展開している。これらはおそらく後世まで「歴史に残る名勝負」として語り継がれていくことだろう。ただしこれもまた、1対1の逆転劇に含まれるものだ。

今回のヤングダービー優勝戦の特異性は、3艇以上が3周目まで激戦を繰り広げた、という点に尽きる。これは数少ないビッグ優勝戦の抜き決着のなかでも、さらにレアなエキサイトバトルだ。順を追っていこう。
【井上忠政の3カドまくり】
並びは枠なりだが、3号艇の井上が決然とカドに引いた。前日の記者会見では3コーススローを宣言していた井上だったが、自慢の伸び足を活かすために秘策を繰り出したのだ。これが奏功した……かに見えた。3コースから一気に内を叩いていった井上は、2コースの中山翔太にやや抵抗されながらも、1マークでは完全にまくり切った。見事な3カドまくり炸裂である。YouTube「展望BOATBoy」で井上の3コースまくりを本命にしていた畠山シュー長はその瞬間に全身の毛穴を大開放していたとかいなかったとか。
【前田滉の5コースまくり差し】
この展開を突いたのは、5号艇の前田だった。4カドの吉田裕平がやや後手を踏むスリットとなり、前田はその頭を叩くように握って出ている。そして目の前に差し場が見つかると、そのままスピードを乗せたまくり差し一閃。井上が中山を振り切った分、やや流れ気味になっていたこともあり、前田が一気に井上に並びかけたのである。その瞬間にシュー長は腰を抜かして涙をこぼしたとか(笑)。(次ページにつづく)
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