最高級の“作品”

そんななかで、にわかに注目を浴びたトピックが「地元返し」であった。
事の起こりはオープニングセレモニー。桐生推薦の関浩哉、土屋智則から始まった初日恒例の選手紹介は、戸田、江戸川と順々に進んでいったのだが、徳山の順番となったとき、大峯豊がこう口火を切ったのだ。
「僕の地元、徳山のSGで貴浩にやられたので、今度は貴浩の地元でやり返したいと思います」
言うまでもなく、徳山のSGはオーシャンカップ、貴浩は西山貴浩を指す。貴浩の地元はもちろん、このメモリアルの舞台である若松である。大峯は、地元SGを西山に獲られたので、西山の地元SGを自分(たち山口支部)が獲るのだと宣言したのである。これに同じく徳山推薦の白井英治が続いた。
「珍しく大峯がいいことを言いました。当然、僕もそのつもりです」
これに下関推薦の海野康志郎も「徳山のSGを貴浩に持っていかれたので、やり返しに来ました」と続き、最後は寺田祥が「僕もそう思います」と締めた。寺田の言いっぷりがやけにあっさりしていて、渋々続いた風情に見えたのはともかく(笑)、山口支部の4人が徳山の仇を若松で返すとぶち上げたものだから、これが大きな見どころに浮上したのである。

実際、山口勢の奮闘ぶりは際立っていたと言える。最終的に寺田と海野は予選落ちを喫してしまっているが、3日目を終えた時点で全員が得点率6・00を上回っていたのだ。海野は、もちろんこのメモリアルだけに照準を合わせていたわけではないだろうが、節間5kgほどの大減量を敢行。また、白井は3日目終了時点7位から2位へ、大峯は同11位から3位へとジャンプアップして、準優1号艇をゲット。準優をともに逃げ切って、ついに優勝戦まで辿り着いたのである。初日の地元返し宣言がおおいなる説得力をまとって、重要なトピックへと昇華された。間違いなく、優勝戦の大きな焦点のひとつとなっていたのだ。
結局、優勝したのは白井英治である。戦前はそこまで評価が高いわけではなかった57号機を節イチクラスに仕上げ、そして華麗な2コース差しでメモリアル制覇を果たした。なにしろ差し切ったのが、地元の総大将である瓜生正義である。それもあわせて、「貴浩の地元でやり返した」優勝であると、もういちどあの宣言を思い起こした向きも少なくはなかっただろう。地元返し成就、である。

だが、優勝後の記者会見でそれを問われた白井は、一瞬ふふっと笑顔を見せたあと、すぐに真顔になってこう言ったのだった。
「徳山のSGを貴浩が盛り上げてくれた。だから、若松のSGを僕らができる限り盛り上げたいと思った」
もちろん、地元SGを勝てなかったことは今年最大の悔恨であったことだろう。ただしそれはあくまで自分(たち)の結果と向き合っての感情である。なにしろ、先月号のインタビューで西山自身も語っていた通り、白井は優勝戦前に西山に「地元のつもりで行ってくれ」と声を掛けているのだ。徳山SGを、最後は西山に託したのである。ならば今度は、若松のSGで俺たちが……それは地元返しではなく御恩返しと言うべきものである。オープニングセレモニーでのあの“連作”はまさにその端緒であり、西山貴浩という男のキャラクターを引き立てつつのリップサービスであったということだ。そして、白井の優勝はまさにその成就であった、ということにもなる。西山は不振に苦しんだけれども、今度は白井が、大峯が寺田が海野が、若松メモリアルに光を注いだわけである。
言うまでもなく、それはひとつの側面でしかなく、白井は自身の栄光のために全力を尽くした。優勝戦は無念の3着だった大峯も同様だ。勝った白井はひたすら強かった。SG初優出で銅メダルを獲得した大峯も大健闘だった。そのなかで彼らは話題多き優勝戦を作り上げた。それはボートレースが確実に抱くひとつの要素である「プロフェッショナルによるエンターテインメント」という点においては、最高級の“作品”である。(黒須田)
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