極上のスーパースター

涙のV。泣き虫王子が峰竜太の愛称なのだから、まあ想定内の光景ではあった。それにしても、これがSG8度目の優勝で、予選トップ通過からの優勝も初めてではない。グランプリのトライアルトップ通過も含めれば、8V中6回がそれにあたる。我々でも想像できる、予選トップ通過→優勝戦1号艇のプレッシャー、それについてはもう山ほど経験してきた峰である。それで失敗もして、乗り越えて成功して、それを何度も繰り返してきたのだ。それでも、峰は優勝してまたもや涙を流した。ちなみにいえば、SG8Vのうち7Vが涙のVである。泣かなかった1回は3V目の20年オーシャンカップのみだ。
何ともまあ、弩級の泣き虫、と片付けてもいいのだろうが、おそらく今回ばかりはこれまでとはかなり意味合いの違う涙だったはずである。
このメモリアルのオープニングセレモニーで、峰は「グランドスラム見たいかー!」と大声で問いかけ、そして「俺に任せとけ!」と景気のいい言葉でファンを沸かせている。まだ誰も達成していないGRANDE5グランドスラム。制度が始まった14年以降、初めて達成した選手には3億円相当のインゴットが贈られるとあって、その挑戦機会として迎えたこのメモリアルで峰は壮大な注目を集めている。そして峰は、その注目に応えるべく、初日から大言壮語で興味を引っ張ったわけだ。
予選トップ通過を果たして、準優も逃げ切って、いよいよその快挙がおおいに現実味を帯びたとき、峰はかなり神妙になっていた。優出選手の共同記者会見でもやけにテンションは低かったし、YouTube「展望BOATBoy」で放映された優出選手インタビューでも同様で、生配信のコメント欄には訝しがるファンのコメントがずらり並んでいたものだ。それについて峰は、「準優がいちばん緊張した」と振り返っている。もし1号艇で、インで失敗して優出を逃せば、グランドスラム狂騒曲はそこでひとまず終焉を迎える。せっかくの盛り上がりが、世の中に対しても大きくアピールできるはずのドラマが途絶えてしまう。そのことに対する巨大な責任感に、峰は全身で震えていた。優勝戦で敗れるならまだしも、優勝戦にその興奮をまとわせることができなくなること、それを全力で怖れたのだろう。
もちろん優勝戦でも、敗れて「グランドスラムならず」の見出しが随所で踊る事態は避けたかったであろう。ようするに峰は、ボートレース界を背負ったのだ。ボートレースを世の中に届けるために勝たねばならぬと震えたのだ。たぶん名誉がほしかったのでもインゴットがほしかったのでもない。それ以上にかなえなければならぬものがあると、峰は強く思い込んだに違いない。
そりゃ泣くでしょ。そして、この涙はとことん重い。峰の紆余曲折ありまくりの道程に思いを馳せれば、なお重い。誰にも味わえないであろう重圧と戦って乗り越えた峰は、この偉業を果たすべくして果たした特別なボートレーサーだ。極上のスーパースターだ。(黒須田)
第72回ボートレースメモリアル 優勝戦
8月30日(日)12R 曇り 無風 波高0cm
着順 艇番 選手 コース ST タイム
1着 ① 峰竜太(佐賀) 1 .05 1’47’7
2着 ② 毒島誠(群馬) 2 .06 1’50’1
3着 ③ 池田浩二(愛知) 3 .04 1’51’0
4着 ⑤ 定松勇樹(佐賀) 5 .10 1’52’2
5着 ⑥ 茅原悠紀(岡山) 6 .10
6着 ④ 磯部誠(愛知) 4 .02
決まり手=逃げ
2連単 ①-② 240円(1人気)
2連複 ①=② 170円(1人気)
3連単 ①-②-③ 580円(1人気)
3連複 ①=②=③ 280円(1人気)
単勝 ① 100円
複勝 ①=100円、②=140円
拡連 ①=② 100円 ①=③ 170円 ②=③ 280円
<レース展開>池田が3カドに引いて、枠なり2対4の並びに。イン峰がスリットから軽快に出ていって1マーク先マイ。毒島が2コースから的確な差しを放ち、舳先を掛ける勢いも、峰はターン出口からも軽快な足色で毒島を突き放し、逃げ切りを決めた。SG8度目の優勝だ。毒島が2番手追走し、3番手は池田のカド攻めに乗って差した磯部が優勢。しかしまくり差し放った定松が2マークは切り返し気味に先マイを仕掛け、磯部がこれを抱いて交わしに出るが、前が詰まる格好で失速。その間に池田が最内を差し込んで3番手逆転。
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